八月から九月への境界線なんて知るもんかと、
真夏の酷暑をそのまま引き継いだ残暑が猛威を振るい。
それが原因での熱中症騒ぎは元より、
太平洋に頑迷にも居座ってた高気圧が邪魔をしてのこと、
なかなかすんなりと通過出来なかった台風が、
途轍もない長居をしたせいで、
尋常ならざる被害を齎しもした初秋九月は、
「案外と短かったと思うのは気のせいかな。」
「いやぁ、目まぐるしかったからねぇ。」
残暑が続くと言われ、
確かにうんざりした覚えもあるのだけれど。
やや強いめ、篠突くとはこのことという見本のような、
嵐のような雨の日も多かった気がするし。
都心はどんだけ台風に弱いやら、
あの東日本大震災を彷彿とさせるような、
交通機能の停止という憂き目に襲われたことも、
なかなか印象深かった体験で。
そんなすったもんだに翻弄されてる間にも、
気がつきゃ草むらから虫の声が聞こえていたし、
陽が落ちればあっと言う間に辺りまで暗くなる、
いかにも秋の日暮れ、
釣瓶落しな暮れようというのが定着してもいて。
そこへと加えて、
「上着とかパンツとか、分厚くねぇと何か寒い日も増えたよな。」
「それは言えてる。」
こちら、賊学カメレオンズは、
オートバイ愛好者が大半、
いやさ 優先順位はどっちが先だか判らないくらい、
アメフトへの打ち込みようと同じほどの密度や深さで、
オートバイにも傾倒しておいでな部員ばかりなものだから。
カッコつけでというのじゃなく、
真っ向から浴びる“走行風”避けも兼ねてのこと、
夏場でも長袖長裾の学ランを愛用していたりする彼らなワケで。
本格的に気温が下がって来た今日このごろともなりゃあ、
合服レベルの上着じゃあ足りず、
ズボンも もろに風を受けるのでと。
衣替えよりも 季節を少しほど先ゆく格好、
目の詰んだ生地の冬物を、
そろそろ出しとかねばという話題になりもして。
練習前のロッカールームにて、
俺なんか もう革ジャン見繕ってるぞだの、
ライダーズジャケットの新型が…なんてな話題に、
周囲の面々も“俺も俺も”と食いつきかけていたのだが。
「……とはいえ、それは大仰でないか、お前。」
男所帯だ遠慮なんて要るかと、
ノックもなしに開いたドアから入って来た彼の、
襟回りや袖口へのファーつきというバックスキンジャケットには、
さすがに…暑くねぇかとの声が飛び、
「我慢大会か? ヨウイチ。」
「ぶぶー、撮影会だ。」
えい畜生、暑いじゃねぇかと、
そのジャケットをえいえいと忌々しげに脱ぎながら、
幼いお顔の細い眉をキュウと寄せたのは。
ちょっぴり遅刻して来た鬼軍曹、
自前の金髪からちょっぴりいい匂いもする、
蛭魔さんチの妖一坊っちゃんで。
「撮影会?」
何だそりゃと首を傾げる皆様の向こうから、
「ジャリプロのカレンダーのか?」
そんな声が挟まって、皆様がやっと“ああ”と納得。
もっとずんと小さかった頃から、
この坊っちゃん、その見栄えと猫かぶりの演技を買われ、
お茶の間アイドル・桜庭春人さんの、カレンダーだの写真集だのへ、
ちゃっかりと友情出演して来た身でもあり。
そんな段取りがついて回る坊やだってことくらいは、
付き合いの長さで とうにお見通しの葉柱キャプテン。
着替えを終えてのユニフォーム姿で、
グローブとヘルメットを手に、
ミーティング用の空間、ベンチ溜まりまで出て来たそのまま、
ドア付近に立っている坊やをチロリと見やり、
「今時分とは遅くはねぇか。」
そこまで事情通になっていようとはと、
おおお…という声なき声を発する面々は置いといて。
撮影現場からタクシーでも飛ばして来たものか、
暑い暑いと文句たれつつ、上着をかなぐり脱ぎ捨てた坊やによれば、
「冬場のは流行とかあって、なかなか服が決まらなかったらしくてサ。」
昨今の流行は、よほどにパワーのある独創的なものでもなけりゃ、
自然発生したものが季節を丸ごと制覇するのは難しい。
色合いでも柄やデザインでも、ほぼ服飾界が先に決めるもの。
そうして決められた“該当商品”が、
市場にちゃんと大量に出回ってるよう取り計らわれているのが基本だそうで。
「寒くなんなら厚着かといや、そうもいかねぇらしくてな。」
最近は機能性下着とか出回ってるから、
見た目 薄着な方が流行るかもとか。
いやいや、
スタイリストの誰それちゃんがアシストしてる大先生が、
来年はファーだよファーって、
しかもフェイクじゃなくナチュラルのって、
結構 公けの場で断言したらしいなんて話も飛び出して。
「どうとも決まんねぇまま、こんなギリギリまで来ちまって。」
印刷所への手配もあったし、
PR用のは どうかすりゃもう店頭へ出してるところもあるくらい。
そんなこんなに急かされるカッコで、
今日ぎりぎりで決まったんだと、と。
愛らしいデザインだが、まだそれはちょっと暑かろう、
ふっかふかなファーを首元へ巻き付けてあった上着を脱いでの、
やれやれと大きく息ついた坊っちゃんで。
「…結構 可愛いところが、理不尽なもん感じるよな。」
「知ってるか?
ケーブルテレビで今年も“マスコットコーナー”やっててよ、
あいつ、レギュラー取りそうな勢いで、
ツィートされまくっとるらしいぞ?」
え? 1位って セナ坊じゃねぇのか?
それが、向こうは進の奴が、
ベンチ圏内への立ち入り禁止をしいてるらしくてな…なんて、
こそこそっと意見交換している面々へ、
“何で詳しいかな、そういうことまで。”
それも余裕か、それとも気ぃゆるんでるだけか。
何なら灸を据えてやっても…なんて、
なかなか物騒なこと、小悪魔様が思っておれば、
「ほれ。」
「ひゃあっ。」
ひんやり冷たいペットボトルを頬に当てられ。
やったな このヤロと、
まだまだちんまりと、寸が足りない腕振り上げて、
わははと笑いつつ速やかに部室から出てった総長追って、
待て待て待てと追っかける後ろ姿は、
「……成程。」
「ああやってれば可愛いわな。」
そういや、総長…もとえ、
ルイさんへは過激な仕掛け使わねぇんだよな、あいつ。
あんな風にやり込められててもだもんな。
その分も上乗せして、俺らへ発散してるとか?
だったらこんな不合理はないと、ぶうたれる面々のところにも、
不公平なくキンモクセイの香りは届き。
透明感を増した青空には、果たしてどこで気がつくものなやら。
秋の心地よい季節感なぞ、年食ってからでも堪能出来ると、
今は 躍起な皆様であるようで。
まだ明るいうちから、りいりいと鳴いてるコオロギさんと、
ある意味 似ている若い衆。
この秋こそは、長く長く大会に出続けられるといいですねと、
微力ながらもと応援しているようでもありました。
〜Fine〜 11.10.01.
*10月の声を聞いた途端、
こちらでも 急に涼しい、過ごしやすい案配となりました。
今年の熱帯夜って結局何日あったんだろ。
このまま亜熱帯と化すんでしょうか、ニッポンて…。
何はともあれ、急な涼しさに風邪などお召しになりませぬように。
めーるふぉーむvv
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